東京地方裁判所 昭和57年(ワ)10801号 判決
一 原告が本件実用新案権及び本件特許権を有すること、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること並びに本件発明の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。
そして、右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載と、成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)によれば、本件考案は、自動車車体の洗浄及び乾燥装置に関するものであつて、原告主張のAないしHの各構成要件からなるものであることが認められる。
また、右争いのない特許請求の範囲の記載と、成立に争いのない甲第四号証の一(本件特許公報)及び甲第四号証の二(本件特許公報の訂正公報)によれば、本件発明は、自動車車体洗浄装置における上面ブラシの作動装置に関するものであつて、原告主張のイないしヘの各構成要件からなるものであることが認められる。
二 被告が被告製品を業として製造、販売していること、被告製品の構造が原告の主張のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。
三 そこで、被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。
1 前記当事者間に争いのない本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載及び前掲甲第二号証により認められるところの本件実用新案公報の「考案の詳細な説明」の欄の「特に本考案において上面ブラシ3の揺動腕5は走行枠1の中央部に支持した支持軸2に三六〇度自由に回転してその下端に支持される上面ブラシ3を車体の天井面に自由に接触させることができるので、その長さを可及的に短く形成することができ、その振り幅が小さくなり、上面ブラシ3が揺動するための距離はきわめて短くてよく」との記載に照らすと、本件考案の構成要件Bにおける「支持軸に中間部を三六〇度自由に回転できるよう軸支される揺動腕」とは、その文言どおり、揺動腕が支持軸に中間部を三六〇度自由に回転できるよう軸支される構成を規定したものであつて、このような構成を有しないものは、本件考案の技術的範囲に属しないことを明示したものと認められる。このことは、当事者間に争いのない被告の主張1の本件考案の出願経過を参照すれば一層明らかである。すなわち、原告は、本件考案の出願の際には当初、実用新案登録請求の範囲に、上面ブラシが自由に揺動できることのみを記載していたにもかかわらず、これを後日補正し、揺動腕は支持軸に中間部を三六〇度自由に回転できるよう軸支されていると明記して、作用効果についてもこの点を補正して、第一引用例との差異を強調しているのであつて、このことを斟酌すれば、本件考案の構成要件Bは、揺動腕の回転角度が三六〇度であるものに限定されると解するほかはないのである。
2 そうすると、本件考案の構成要件Bに対応する被告製品の構成bにおいて、前者の揺動腕に対応する後者のトツプブラシアームは、前者の支持軸に対応するトツプブラシアーム軸に二八七度しか自由に回動できないよう軸支されているのであるから、この点において被告製品は本件考案の構成要件Bを欠き、したがつてその余の点につき判断を加えるまでもなく、被告製品は本件考案の技術的範囲に属さないことが明らかである。
四 次に、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。
1 前記当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載及び前掲甲第四号証の一により認められるところの本件特許公報の「発明の詳細な説明」の欄の「上面ブラシ6は前記揺動腕3、3´とともに支持軸2、2´を中心に三六〇度回動することができる。」「上面ブラシ6を支持した揺動腕3、3´は、上面ブラシ6が支持軸2、2´よりも上方に回動できるよう、その支持軸2、2´を中心に三六〇度自由に回転できるもので」との記載に照らすと、本件発明の構成要件ホにおける「揺動腕を支持軸の回りに三六〇度自由に回動できるようにする」とは、その文言どおり、揺動腕が支持軸の回りに三六〇度自由に回動できる構成を規定したものであつて、このような構成を有しないものは、本件発明の技術的範囲に属しないことを明示したものと認められる。このことは、当事者間に争いのない被告の主張2の本件発明の出願経過を参照すれば一層明らかである。すなわち、原告は、本件発明の出願の際には当初、特許請求の範囲に、揺動腕は揺動できるよう軸支するとのみ記載していたにもかかわらず、これを後日補正し、揺動腕が支持軸の回りに三六〇度自由に回転できると明記して、作用効果についてもこの点を補正して、第二及び第三引用例との差異を強調しているのであつて、このことを斟酌すれば、本件発明の構成要件ホは、揺動腕の回転角度が三六〇度であるものに限定されると解するほかはないのである。
2 そうすると、本件発明の構成要件ホに対応する被告製品のトツプブラシの作動装置の構成(ホ)において、前者の揺動腕に対応する後者のトツプブラシアームは、前者の支持軸に対応するトツプブラシアーム軸の回りに二八七度しか自由に回動できないのであるから、この点において被告製品は本件発明の構成要件ホを欠き、したがつてその余の点につき判断を加えるまでもなく、被告製品は本件発明の技術的範囲に属さないことが明らかである。
五 よつて、その余の点につき判断を加えるまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却する。
〔編註〕本件における実用新案権および特許権は左のとおりである。
(一) 原告は、次の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する。
考案の名称 自動車車体の洗浄及び乾燥装置
出願日 昭和四五年四月一八日
出願公告日 昭和四九年九月二日
登録日 昭和五〇年六月一三日
登録番号 第一〇八四三七〇号
実用新案登録請求の範囲 別添実用新案公報の該当欄記載のとおり
(二) 本件考案の構成要件を分説すれば次のとおりである。
A 門型の走行枠の略中央部両側に支持される支持軸と、
B これらの支持軸に中間部を三六〇度自由に回転できるよう軸支される揺動腕と、
C この揺動腕の下端に支持される上面ブラシと、
D 前記揺動腕の上端に連絡され前記ブラシを上方格納位置に保持する装置と、
E 前記走行枠の前方においてその両側に横架される案内レールと、
F この案内レールに走行枠の走行方向を直角方向に開閉できるよう吊下される一対の側面ブラシと、
G さらに前記走行枠の背部において、その両側方に対向して設けられる一対の側面送風ノズル及びその上方に昇降可能に支持される上面送風ノズルと、
H 前記ノズルに連通する送風機と、
よりなること。
(三) 本件考案の作用効果は次のとおりである。
(1) 本件考案の装置においては、一個の走行枠に洗浄、乾燥装置をコンパクトに装備できるとともに、走行枠の一往復によつて洗浄、乾燥を一挙に行うことができるので、装置は場所をとらず、しかも洗浄、乾燥時間を短縮することができる。
特に本件考案において、上面ブラシの揺動腕は走行枠の中央部に支持した支持軸に三六〇度自由に回転してその下端に支持される上面ブラシを車体の天井面に自由に接触させることができるので、その長さを可及的に短く形成することができ、その振り幅が小さくなり、上面ブラシが揺動するための距離はきわめて短くてよく、さらに一対の側面ブラシは走行枠の走行方向に揺動することがほとんどないので、結局上面ブラシ及び側面ブラシが作動するに際して必要とするための走行枠の走行方向の空間は極めて小で足り、限られた走行枠の奥行幅内に、側面、及び上面送風ノズルを取り付けるためのスペースを設けることができ、全体として走行枠内に上面及び側面ブラシと上面及び側面乾燥ノズルを、それらが作動しても互いに干渉することなくコンパクトに納めることができ、全体の装置を小型に形成することができるとともに、作動中でも上面及び側面ブラシは走行枠外に大きく突出することがないので、作業を安全に行うことができる。
(2) また、上面ブラシは上方の格納位置に保持することができ、また側面ブラシは両側方に開くことができるので車体の乾燥中、これらのブラシは車体面に接触して乾燥後の車体を濡れたブラシで汚すことはない。
2(一) 原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する。
発明の名称 自動車車体洗浄装置における上面ブラシの作動装置
出願日 昭和四五年四月一八日
出願公告日 昭和四八年一〇月一七日
登録日 昭和五一年六月三〇日
登録番号 第八一九六九九号
特許請求の範囲 別添特許公報の該当欄記載のとおり
(二) 本件発明の構成要件を分説すれば次のとおりである。
イ 門型の走行枠の両側部定位置に、それぞれ支持軸を片持状に支承し、
ロ これら支持軸の内端を走行枠内に突出し、
ハ そこに洗浄すべき車輛の車巾よりも少なくとも広い間隔を存して対峙される一対の揺動腕を回動できるように支持し、
ニ その揺動腕間に上面ブラシを回転できるよう横架し、
ホ 上面ブラシが走行枠の走行に伴う前記車輛との接触によつて支持軸よりも上方に回動してその支持軸の略真上位置をもとり得るよう揺動腕を支持軸の回りに三六〇度自由に回動できるようにするとともに、
ヘ その上面ブラシの放射方向を開放してなること。
(三) 本件発明の作用効果は次のとおりである。
(1) 車輛の洗浄に際して、車輛は揺動腕間を自由に通過しうるとともに、上面ブラシは車体上面に接触して支持軸よりも上方に揺動し、上面ブラシが支持軸の真上位置をとりえて、しかも上面ブラシの放射方向は何らの障害物もなく開放されているので、支持軸を定位置に支承し揺動腕を可及的に短く形成したにもかかわらず、上下方向に大きな洗浄巾をとることができ、上面ブラシは自動車車体の凹凸上面によく追従して上下に大きく移動させることができ、その車体面を能率良くブラツシング洗浄することができ、支持軸の支持レベルよりも高い天井面を有する車輛でも洗浄が可能になる。
(2) また、揺動腕は短いので、その回転半径が小さく、それらが回動するための走行枠に設けるスペースは小さくて足り、しかも支持軸は比較的定位置に配置できるので、装置全体を極めてコンパクトに形成することができる。さらに前述のように上面ブラシはその放射方向が開放され何ら障害物もないので、上面ブラシの直径を大きくすることができ、洗浄効果を一層向上させることができる。
(3) さらに揺動腕は上面ブラシが車輛の車体面に接触することによつて回動することができるので、洗浄時に揺動腕を回動するための駆動手段は何ら必要でなく、構造を簡素化して安価に提供しうる。